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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)2900号 判決 1966年12月14日

原告

細山清平

右訴訟代理人

加藤充

外三名

被告

学校法人近畿大学

右代表者

世耕政隆

右訴訟代理人

多屋弘

外一名

主文

原告が、被告大学法学部法律学科の学生(四回生)としての身分を有することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、請求の原因として、

「一、原告は、被告大学法学部法律科三回生であつたところ、昭和三九年度前期分(四月以降九月までの分)授業料をその納入期日である同年五月二五日までに納めることができなかつたため、被告大学学則第一九条に基き、同年六月一八日被告大学により除籍された。

二、ところで、被告大学学生規定第三一条は、「滞納除籍者の復学は次の場合願い出により許可するものとし、これらの期間を過ぎた場合は原則として許可しない。」と規定し、その第一号には、「同年次へ復学しようとするときは、除籍後一カ月以内に所定の復学願に保証人連署の上、滞納学費および復学金二、〇〇〇円を添えて学生部へ願い出なければならない。」と規定し、同第二号として、「翌年度初めより、もとの年次へ復学しようとするときは、除籍を受けた年度の三月三一日までに、所定の復学願に保証人連署の上、復学できることを証明する書類、および、復学金二、〇〇〇円を添えて学生部へ願い出なければならない。」と規定しているので、原告は、右規定第一号に従い、除籍後一カ月以内である同年六月三〇日、原告の母にして保証人である細山俊子と連署した復学願に、滞納学費二九、五〇〇円及び復学金二、〇〇〇円を添えて、これらを被告大学学生部学生課に提出したところ、被告大学(同課第一補導係長中西正臣)は、原告の復学願書だけは受理したが滞納学費及び復学金の受領を拒否し、ついで同年一〇月一六日に至り、はじめて原告に対し、授業料滞納による除籍が三回以上に及んだ者は復学を許可しない旨の基準があり、原告が右基準にあたることを理由として原告の復学を不許可とする旨を明らかにした。

三、しかし前記学生規定第三一条本文前段は、同条一号所定の手続がとられた場合被告大学はこれを「許可する」と規定し同条本文後段が、同号所定期間経過後に提出された復学願については「原則としてこれを許可しない」としているのと区別していることから考えて、許可、不許可につき裁量の余地のないことは文理上明白であるというべく、かつ、この場合においては、被除籍者に対し被告大学が復学許可の意思表示をなすまでもなく、被除籍者をして当然に従前の学生たる身分を回復せしむる趣旨と解すべきである。従つて、前記のとおり、原告が同年六月三〇日被告大学に復学願を提出すると同時に、原告は、従前の被告大学法学部法律学科三回生としての身分を当然回復し、ついで昭和四〇年度の開始に伴い同学科四回生に進級したものであるのにかかわらず、被告大学はこれを争うので、ここに被告大学に対し、原告が右身分を有することの確認を求める(尚、被告大学においては三、四回生を通じ所定専門科目につき合計七二単位以上の修得が要求されてはいるが、三回生から四回生への進級そのものは自動的になされている。)」

と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、「原告主張の事実中、原告が昭和三九年四月一日現在被告大学法学部三回生であつたこと、原告がその主張の授業料を滞納したため被告大学により除籍されたこと、同大学学生規定第三一条が原告主張どうりの文言で規定されていること、原告が同年六月三〇日に復学手続をしたので、被告大学は原告の復学願書のみを一応受理したが、滞納学費及び復学金の受領を拒絶したこと、同年一〇月一六日、被告大学が原告に対し、原告主張の理由をもつて原告の復学を許可しない旨表明したことはいずれもこれを認めるが、その余の事実は、すべてこれを争う。原告に対する除籍の効力は、原告において本件授業料の納期たる同年五月二五日を徒過したことにより当然生じたものであつて、被告大学が同年六月一八日にした被除籍者氏名の公示は、これを一般に公表したにすぎず、これによつて除籍処分をしたものではない。

二、被告大学学生規定第三一条所定の除籍者に対する復学許可は、被告大学の自由裁量にゆだねられた行為と解すべく、仮にそうでないとしても、被除籍者から復学手続がなされたこと自体により当然復学の効果が発生するものではなく。被告大学のなす復学許可の意思表示を待つてはじめて右効果が生ずると解すべきであり、被告大学においては、従来から右解釈に従い、被除籍者から所定期間内に適式な復学願の提出を受けた時は、その者に対し学生部長名義で復学許可書を発行、交付して来た(被除籍者は右許可書に滞納学費及び復学金を添えて、これを出納課に納入する)のであつて、右手続の過程において被告大学が復学許可の意思表示をしていることが明らかであるところ、本件においては、原告に対し被告大学は、右のような復学許可の意思表示をしていないから、現在原告が被告大学学生としての身分を有していると言えないことが明らかである。」

と述べた。

理由

一被告大学法学部法律学科三回生として在籍した原告が、昭和三九年五月二五日を納期と定められた同年度前期分(四月から九月までの分)授業料を滞納したことを理由に、被告大学から除籍されたこと、原告が、同年六月三〇日、被告大学に対し、原告の母にして保証人でもある細山俊子と連署した復学願に、滞納授業料二九、五〇〇円及び復学二、〇〇〇円を添えて提出したところ、被告大学においては、復学願書を受理したが右授業料及び復学金の受領を拒絶し、ついで、同年一〇月一六日、原告に対し、授業料の滞納による除籍が三回以上に及んだ者の復学はこれを許可しない旨の被告大学の規準により、原告の復学を許可しないと表明したこと、及び、被告大学の復学手続に関する学生規定第三一条の文言が原告主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

二よつて本件復学願の効力を判断する前に、先ず本件除籍の効力発生について判断する。この点について、原告は、授業料を滞納した原告に対し、被告大学が除籍処分をした同年六月一八日に除籍の効力が発生したと主張するのに対し、被告は、本件授業料の納付期限たる同年五月二五日の経過と同時に当然除籍の効果が発生したと主張するので考えてみるに、<証拠>を考え合わせると、被告大学が、原告において本件授業料を滞納したため、学生規定第二四条及び学則第一九条第三項により、原告について除籍の効力が生じたとして、同年六月一八日、その旨を同規定第三八条により学内掲示板に掲示して公告したこと、右学生規定第二四条は、「……所定の期間内に学費を完納しないものは学則第一九条により除籍する。」と規定し、学則第一九条第三項は、「授業料等の納付を怠る者は除籍する。」と規定していることが認められる。ところで、右両規定の「除籍する」旨の文言のみからは、両条所定の事由の発生により当然除籍の効力が発生すると解すべきか、或いは、更に除籍する旨の意思表示を要すると解すべきかを決することができないのであつて、他の規定ないし除籍の意義等からこれを合理的に判断しなければならないと考えられるところ、<証拠>によると、休学後の退学について、学生規定第二一条は、「休学期間満了と同時に自動的に退学となる。」と定め、休学中の学生につき休学期間が満了したときは、特別の意思表示ないしは退学処分を待たずに当然退学の効果が発生することを文理上明確にしている規定が存在し、また同第一四条が「学費未納者には各種の証明書を発行しない」と定め、納付期限経過後において、滞納により除籍された者の他になお学費未納者なる者が存在することを窺わしめるに足る規定が存することが認められるのであり、これらの規定が存することのほかに除籍が、入学を許可された学生が有する、大学における教育を受けかつ研究する権利を奪うという、被除籍学生にとつて重大な結果を招来せしめる処分として、学生に対する懲戒処分の一たる除籍処分(学則第二二条)との間に、実質上その効力に差異がないことを考え合わせてみると、学費滞納による除籍の効力は、納付期限の経過と同時に当然発生すると解すべきではなく、被告大学においてこれを理由として滞納者を除籍する旨の意思表示をし、かつ、右意思表示が被除籍者に到達するか、少なくとも被除籍者をしてこれを知り得る状況においたときに効力が発生すると解すべきであり、従つて、被告大学が原告に対し直接除籍する旨の意思表示をしたことについて主張立証のない本件においては、原告をしてこれを了知しうべき状態に置いた前示公示の日即ち昭和三九年六月一八日に本件除籍の効力が生じたと解するのが相当である。

三そこで、進んで本件復学の成否について判断する。

(一)  学生規定第三一条が、「滞納除籍者の復学は次の場合願い出により許可するものとし、これらの期間を過ぎた場合は原則として許可しない。」と規定し、その第一号として、「同年次へ復学しようとするときは、除籍後一カ月以内に所定の復学願に保証人連署の上、滞納学費および復学金二、〇〇〇円を添えて学生部へ願い出なければならない。」と規定し、その第二号として、「翌年度初めより、もとの年次へ復学しようとするときは、除籍を受けた年度の三月三一日までに所定の復学願に保証人連署の上復学できることを証明する書類および復学金二、〇〇〇円を添えて学生部へ願い出なければならない。」と規定していることは、前示のとおり当事者間に争いがないところであつて、原告の復学願が同条第一号所定の期間内に適法になされたといわねばならないことは、前示認定によつて明らかである。

(二)  ところで<証拠>を総合すると被告大学における従来の取扱いによれば、学生課において右復学願を一旦受取つたうえ、同課備付けの受理印(当日の日附及び「済」と刻された丸印)をこれに押捺して被除籍者に返還し、被除籍者が右押印のある復学願に滞納授業料及び復学金二、〇〇〇円を添えて経理部出納課に提出し、同課がこれを受領することにより手続が終了するのが通例であつた。(若し復学願に学生課の丸印が押されていなければ出納課では滞納授業料等の受領を拒否する)ところ、本件においては、原告の復学願につき学生課第一、補導係長中西正臣は、「今年から学生部が復学の許否につき審議することになつたから直ぐには手続を完了させることはできない」として、受取つた復学願に同課の受理印を押捺することをしなかつたため、原告は以後の手続をなすことができなかつたので、同年七月七日頃、更に学生課に出頭して右中西係長に対し、原告の復学願に対し如何なる結論が出されたかを問い合わせたところ、同係長において、「滞納除籍が三回以上に及ぶ者の復学許可については審議中である。」と答え、(かかる滞納者については復学を許可しない旨の基準は、本件復学願提出時には存在しなかつた。)、ついで同月一〇日付で学費未納を理由に法学部授業料台帳中の原告欄が朱抹されたが、被告大学は右事実を直ちに原告に通知することをせず、漸く同年一〇月一八日に至り原告及びその保証人細山俊子を被告大学々生部に出頭させ、同部学生課長高本及び前示中西係長らが原告等に対し、被告大学は原告の復学を許可しない旨の最終的な回答を与えた事実を認めることができ、右認定に抵触する<証拠>の一部は措信し難く、他に右認定を左右するに足る的確な証拠がない。

(三) 右のように、学生規定第三一条第一号に基く適式な復学手続がなされた場合には、被告大学において、復学の許否につき自由裁量権を有しないと解すべきであることについては、同条本文後段が、第一、二号所定の復学願出期間経過後になされた復学願について、「原則として許可しない」と定め、被告大学に自由裁量権があることを認めているのに対し、同条本文前段が第一、二号所定の復学願出期間内になされた復学願の許可について何らの留保も附されていないことからみて、この場合に被告大学が自由にその裁量を働かせる余地がないことは文理上明白である。

(四) ところで学生規定第三一条本文前段による復学願について、被告大学に裁量の余地がないにしても、被告大学において、被除籍者に対し復学許可の意思表示をしない限り、被除籍者が被告大学学生としての身分を回復し得ないものかどうかについては、更に検討を加える必要がある。元来、被告大学が授業料滞納学生に対しその学生としての身分を一方的に剥奪する除籍処分をなし得る反面、除籍後一カ月以内に滞納授業料及び復学金を添えて復学を願い出る者に対しては、これを全面的に許可するものとし、学生たる身分の回復に寛大な態度とる旨を、その学則及び学生規定に明示した趣旨は、私立大学たる被告大学における学内施設の整備改善、及び、その維持運営費の財源が学生の納入する授業料等に強く依存する関係上、その徴収を確保せんとする要請から、授業料徴収事務を可及的に敏速且つ円滑に処理せんとするものにほかならず(この点において、同じく学生の身分を奪う処置である懲戒処分としての退学乃至除籍が専ら大学内の秩序維持と教育目的の遂行上認められているのとは本質的に異る)、それであるからこそ、当面の授業料滞納状態が学生自身の意思により所定期間内に解消されるならば、以後被告大学としては、右学生に対し、直ちにもとの学生たる身分を回復せしめるべきことを規定したものと解すべきであつて、この見解が正当であることは、仮に復学の効果発生には被告大学のなす復学許可の意思表示が必要であると解するとせんか、その意思表示がなされるまでの間被除籍者は常に不安定な地位ないし状態に置かれる結果となり、実質的に見て被告大学に対し被除籍者の復学許可に裁量の余地を認める場合と大差のないこととなることからみても明らかである。そして、復学についてかかる見解をとることが、除籍について意思表示を必要とする前示見解をとることと、なんら矛盾するものでないことは、ことの軽重から考えて多言を要しないところである。従つて、被除籍者から前示第三条本文前段による適式な復学願の提出がなされた場合、被告大学はこれを受理すると同時に、特別の意思表示(復学許可)をするまでもなく、その者を従前の大学生たる身分を回復したものとして取扱わねばならないというべく、被告大学において前示のように復学願に捺印する等のことも、それは単に被告大学内部における事務処理上の便宜のために確認的に行なわれていたに過ぎないとみるべきである(被告大学において、仮に乙第一号証のような復学許可書を作成交付しているとしても、その趣旨は同様であるとみるべきである。)

四以上の説示したところから明らかなように、原告が除籍された昭和三九年六月一八日から一カ月経過以前たる同年六月三〇日、被告大学に対し適式な復学手続をとつたことにより、同日当然に被告大学法学部法律学科三回生としての学生たる身分を回復したものと言うべきであり、(原告が提供した滞納授業料及び復学金を被告大学が受領していないが、これは被告大学に受領遅滞があるに過ぎない。)更に被告大学学生である限り三回生から四回生に当然進級することにつき被告大学において明らかに争わない本件において、原告が同四〇年四月一日以降同部同学科四回生としての身分を取得しているといわねばならないから、被告大学に対し、右身分を有することの確認を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(下出義明 上田耕生 田中宏)

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